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ルーレット――その戦法と起源
ルーレットはカジノ・ゲームの中で最も長い歴史を持つものと考えらています。古代の兵士たちが敵兵の骨から削り出したダイスを振り、地面に置いた盾を回しながら遊んでいたのが由来だそうです。信じられない話かもしれませんが、いくつかの歴史書にはそのような記述があるのです。戦場に持ち込んだ不味いワインで酔っ払った後、人間が求めるものと言えば、やはり娯楽ではないでしょうか。
もちろん、ルーレットは戦時中だけのお楽しみというわけではありませんでした。当時、ダイスの目やルーレットの回転は神のご意思によるものと信じていたのです。戦場で生み出された習慣は平時の酒場に持ち込まれ、人々の興味を惹いたのです。
その後、ルーレットはカジノという業態が現れたその時から勝負のテーブルとして受け入れられていきました。勇敢な男たちは神のご意思に基づき秩序や法則を導き出そうとしたものの、散々な結果に終わってしまいます。勇敢な男たちが――まさに戦争にのぞむ兵士のように――「神のご意志」から、秩序や法則を導きだそうとしたんだ。でも、その結果はひどいものだった。もしもタイム・マシーンがあって時間を遡れるのなら、彼らが発見したいろんな戦略はどれもぜんぜん役立たずで、カジノという機関の数学的厳密さにはとうていかなわないものだって、教えてやりたいくらいだよ。
それでも、彼らが生み出した戦略のうち、いくつかは今日でもまだ使えるものでした。彼らは盾の回転の中に意味あるものを見出したのです。自分のやっていることが確かな理論に基づいていると思うことほど、楽しいことはないからね。そういうわけでは、ここでは、古い時代の戦略から最近の新しい戦略まで、概観してみようと思う。すこし長くなってしまうことは間違いないけれど、ちょっと我慢してつきあってほしい。そうすればあなたも、盾を回していた時代の勇敢な兵士たちの仲間入りができるってわけさ。
まずは、ふたつのとても古い戦略から紹介していこう。これがリア王の時代から使われていたものだって言っても、あなたは信じないんだろうけど……え、それはどうでもいいって?
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マルティンゲール・メソッド
たとえあなたがほんの数回しかカジノで遊んだことがなくても、マルティンゲール・メソッドという言葉くらいは耳にしたかもしれない。マルティンゲールが誰だか知らなくてもね。というか、話を聞いているうちに、あなた自身が発見した戦略とまったくおなじじゃないかと思うかもしれないくらいだ。勝負をしているうち、だいたいみんなこう考える――「遅かれ早かれ、勝つか負けるかじゃないか」
この考えは、正しくもあるし、間違ってもいる。
マルティンゲール・メソッドというのはこうだ。いちど勝負に負けるたびに、賭け金を倍にしてつぎの勝負に挑む。「遅かれ早かれ……」とか考えながらね。10ドル負けたら、つぎの勝負で20ドル。20ドル負けたら、つぎの勝負で40ドル。こうして倍々に賭ける金高を上げていく。もしも40ドルの勝負に勝てば、もともとの負けを補えるという戦法さ。
理にかなっていると思うだろう? しかしね、ここには落とし穴があるんだ。負けるたびに80、160、320、640ドルと金高が増えていくとして……1280ドルの勝負はできないんだ。なぜかって? カジノが止めるからさ! 一度のゲームに賭けられる金高は、場所にもよるけど、だいたい1000ドルまでと決まっている。だから六回か七回ほど連続して負けてしまうと、プレイヤーは取り返せずに終わるんだよ。
つまりマルティンゲール・メソッドは、あのタイタニック号を沈めたちいさな氷山の一角みたいなものでね。たとえ640ドルとか1280ドルとか大金を賭けるにしても、それは最初に負けた10ドルを取り返すための防御策でしかないのさ。たった10ドル勝つためにそんな大金を投資しなきゃならないなんて、ちょっとおかしいと思わないか?
だいたい、負けることを戦法に織り込むこと自体が間違いなんだな。たった10ドル勝つためだけに大量のチップを買い込むなんてのは、お世辞にもエレガントとは言えないし、そもそも勝ちに投資しているとはいえない。負けに基づいて戦法を組み立てるせいで、勝ちの絵が描けないんだ。それに、六回や七回ほど続けて負けることは、ざらにあることだよ。マルティンゲール・メソッドは、「遅かれ早かれ勝つか負けるか」じゃなくて、「遅かれ早かれどうせ負ける」って考え方なんだ。そんなことでは、いつまでたっても幸運を引き寄せることはできない。そのまえに財布が空っぽになっちゃうだろうね。
まとめておくと、最初のうちは、10ドルの勝ちをいくつも積み重ねることができるだろう。しかしいつの日か、六回連続で負ける日がやってきて、そのときには一文無しってわけだ。
ガン・アンド・ラン・マルティンゲール
かりにマルティンゲールでやるとして、私なら二倍のオッズでしかやらないだろうね。イーブンかオッズか、ハイかローか、レッドかブラックか……。数学的に言えば、この方法なら、プレイヤーの勝ちと負けの比率は18対20に落ち着く。つまり18回勝つときには、だいたい20回くらい負ける。これはアメリカ式のゼロがふたつあるルーレットの場合だね。ヨーロッパ式のゼロがひとつのものは、19回勝つ計算になる。これは覚えておくといい、いつだってヨーロッパ式のほうが勝つ確率は高い。
ガン・アンド・ランのプレイスタイルはつぎのようなものだ。まず手始めに10ドル賭ける。負けたら、つぎの勝負で20ドル賭ける。この勝負にも負けたら? 二度、プレイしない。座ったまま賭けずに済ませるんだ。それから三度目のスピンで、40ドル賭ける。この勝負にも負けたら? 10ドルの勝負に戻る。あとはその繰り返しだ。
このメソッドの肝は、頭を冷やす時間を盛り込んでいることだね。覚えて置いてほしいのは、イーブン・マネー、つまり二倍の勝負っていうのは、数学的にはべつにイーブンじゃないってことなんだ。ゼロのことがあるからね。「イーブン」って言葉に引きずられて、公平な勝負をやっているとつい思い込んでしまうけど、実際のところはカジノ側が勝つ確率のほうが高いんだ。だから二回の休憩を挟んで、そのことをじっくり思い出すこと。そしてマルティンゲール・システムみたいなドツボにはまらないようにすることだ。勝負をはじめからやりなおすとして、まだあなたの財布からは70ドルしか失われていないんだからね。
パローリ・システム
このパローリ・システムってやつも、初心者が自分で見つけ出したと勘違いすることが多い戦法だね。つまり、ついさっき勝ったんだから、もう一度くらい勝ちが来るだろう、という楽観主義に基づいた戦法だ。しかしね、さっきの勝負は、べつに、いまこの勝負には関係がない。勝つこともあるし、負けることもある。それはいつだっておなじなんだ。
気分はいいかもしれないけれど、これだって上等とは言えないな。つまり10ドルを賭けて、勝てばつぎの勝負で20ドルを賭ける。その20ドルも勝てば、また10ドルに戻る。つまり小さな勝ちの流れをいくつも作っていくような戦法だね。
ただこの戦法は、勝ちに時間がかかりすぎるんだ。勝つまで勝負に出られないことが、ちょっとした硬直をもたらす。大勝利をおさめるまでの長い道のりを自ら選ぶようなものなんだ。
だから私がパローリ・システムを使うときには、ちょっと変更を加えてみている。まず、最初の勝負でいちど勝っても、賭け金を増やさないことにする。最初に10ドル賭けて勝てば、もういちど10ドル賭ける。それでまた勝てば、つぎに20ドル賭ける。これにも勝てば、40ドル。これにも勝てば、合計80ドルになる、という寸法だ。
これはなかなか興味深い戦法だと思う。つまり軍資金が500ドルあったとして、最初の二回の勝ちで、520ドルになる。かりに三度目の勝負で20ドル負けたとしても、500ドルに戻るだけだ。四度目の勝負でも同じことが言えるんだね。
つまりこの戦法は500ドルを基準として行ったり来たりを繰り返しながら、チャンスをうかがうようなスタイルといえる。かなり安全な戦い方だ。とにかく自分の縄張りというか、気分のいいところで戦うから、おかしな判断も起こりにくい。負けたときのフェイルセーフというか、安全装置を軍資金にかけておくことで、理性ある戦い方ができるってわけだ。それに、この方法ならなかなか長く遊んでいられる。もちろん一回のベットですべて財布の中身を使い切ってしまいたいなら話はべつだけど、つぎの予定まで数時間あるようなとき、このやりかたは案外楽しいよ。
とにかく覚えて置いてほしいのは、パローリ・システムはイーブンに賭ける、ってことだ。
で、けっきょくどの戦法がいちばんいいの?
ここでは私のお気に入りのふたつの戦法を紹介したけれど、どうか覚えておいてほしいのは、どのルーレットだって、けっきょくはカジノのほうにわずかに有利にできているってことだ。アメリカ式なら5.26パーセント、ヨーロッパ式なら2.7パーセントぶんだけ、プレイヤーに不利にできている。カジノだって商売なんだから、当たり前のことだよな。そして、どんな戦法を使おうとも、けっきょくはこの数字から逃げることはできないんだ。
いずれにしても私はパローリ・システムのほうが優れていると思う。だって、マルティンゲール・システムのドツボは怖すぎるからね。負けに負けた最後の600ドルを、冷や汗をかきながらベットするのは、なんだかエレガントじゃない。それならまだ、パローリ・システムのほうがいい、あんまり戦局がひどくならないうちに撤退することができる。ただ、もちろん手に汗握る短期決戦のほうがいいなら、マルティンゲールでもいいとは思うけれど。とにかく、選ぶのはあなたの自由さ。